消費税を考える

2019年10月、消費税率が10%になり、軽減税率制度がスタートし、インボイス方式の導入も決まっています。消費税はこれからその重要性がますます大きくなってきます。しかし、私からみると、消費税ほど分かりにくく、誤解が多い税も珍しいと感じます。そこで、「消費税を考える」として、実務家の立場から、日々感じることをかいてみることとしました。

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税込表示が原則です

消費税率アップ、軽減税率導入から一月あまり経過。最近気になっていることがある。
消費税法は、スーパーなど小売店にたいし、プライスカードや、広告チラシなどでは、税込価格の表示を義務づけている。
「不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等において、あらかじめ課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の価格を表示するときは、当該資産又は役務に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない。」(消費税法63条)が、この規定である。

ところが、実際の店頭表示や折り込みチラシなどで、税抜き価格を大きく表示し(税抜き)といった表示や、申し訳程度に(参考:税込価格)としている例が多い。特にチラシや、テレビCMでは、(+税)といった表示すらある。

これらは違法かといえば、そうではない。別の法律(いわゆる転嫁特別措置法)で、表示価格が税込みであると誤解されない措置をとっている限り税抜き表示が認められているからだ。この規定の考え方として財務省は「消費税転嫁対策特別措置法ガイドライン」を公表している。このガイドラインには、例示として「100円(税抜き)」や、「100円(+税)」といった表示も「誤認防止措置」としてあげられている。

税抜き表示をしているスーパーなどの言い分は「ガイドライン」にしたがっているから問題ないということなんだろうか。

消費者にとって必要な情報は税込み価格

いうまでもなく、買い物する側からいえば、「いくらで買えるのか」が、知りたいのであり、税抜き価格表示は不便であり、税抜き価格は不要な情報である。そもそも消費税法本法で税込み表示を義務づけておきながら、特別措置法で「100円+税」といった例外を認めるのは、売り手が消費税相当額を商品価格に転嫁しやすいように、という趣旨である。

姿勢が問われる

大手通販業者や小売店でも「税込み」を原則としているところもあり、商店街の小売店では、「税込み」表示は珍しくない。買い手にとって、どちらが親切かといえばいうまでもない。
中には「98円(税抜き)」を特大の文字で表示し、見えないような小さな字で「税込み参考価格105.8円」というようなプライスカードすらみかける。これでもガイドラインに抵触しないからOKだということなのだろうか。どちらを向いて商売をしているのかと姿勢を問いたい。

不当景品類及び不当表示防止法

税込み価格を極端に小さな文字で表示するとか、チラシの隅に小さな文字で「価格はすべて税抜きです」というような、極端なモノは「不当景品類及び不当表示防止法」に触れる可能性があるのではないだろうか。参考までに同法の条文をあげておく。

第5条
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

「軽減税率大変だぁ」

軽減税率制度が始まった。主に飲食店など、軽減税率対象商品を購入する事業者から、その記帳の煩雑さに悲鳴が上がっている。その原因は複数税率が初めての経験であるだけでなく、食品スーパーなどのレシートに、税率別税込み金額の記載がないことにある。

消費税の仕入税額控除の計算には、税率ごとの「課税仕入」の記帳が欠かせない。この記帳なくして自分が納付する消費税の申告書が作成できない。この記帳のためには、税率ごとの税込み金額が必要となる。ところが、私が見るかぎり、外税方式を採用する店舗のレシートには、税率ごとの税込み金額の記載がない。したがって、記帳(会計ソフトへの入力)に際しては、自分で税抜き価格と税額を合計する必要がある。日々の買物が多い飲食店などの負担は大変なものだ。

何のためのレジ助成か

軽減税率(複数税率)対策としてレジ補助金が実施されている。

しかし、実際に消費税を申告納付する側からいえば、売り手だけでなく買い手のことも考慮して助成対象レジの要件を検討すべきではなかったのかと疑問に思う。

売り手側からみれば、10%対象の売上と軽減税率売上の区分ができなければ、消費税の申告計算ができない。他方、買い手側からみれば、課税仕入れの金額が10%対象なのか、軽減税率対象なのか区分できなければ仕入控除の計算ができない。

現に中小機構軽減税率レジ補助金のテレビCMでも「お客様が仕入税額控除を行う場合税率ごとに合の計金額が記載されたレシートの保存が必要です」と放送していた。改めてCMを見直すと、レシートは、8%対象商品の税込み合計、10%対象商品の税込み合計がちゃんと記載されている。しかし、軽減税率が実施されてみると、税率区分ごとの税込み金額きさいされたレシートは全く見かけない。原因はどうも外税方式にあるようだ。外税方式のスーパー等のレシートはどこでもほとんど下記のようになっている。

8%対象商品税抜き価格 2000
10%対象商品税抜き価格 1000
8%対象消費税 160
10%対象消費税 100
合計金額 3260

これでは、1回電卓で、税率区分ごとの合計を計算しないと会計ソフトに入力できない。複数税率で事務負担が大変なのにおいうちだ。

解説

日本の消費税法では、税の累積を避けるため「仕入税額控除」という方式で前段階での消費税相当額を控除する方式を採用している。どの事業者もレシートに記載された消費税をそのまま税務署に納付しているわけではない。消費税を申告納付するためには、売上に含まれる消費税相当額と仕入・経費に含まれる消費税相当額両方の集計が必要となる。

これが、事業者が納付する消費税計算原則的な方法だが、小規模事業者には売上だけから仕入税額を計算する方法も認められる。これが簡易課税方式である。

税込み金額の記載がないレシートを受け取って煩雑な処理を強いられるのは、簡易課税を選択していないか、前々年の売上が5,000万をこえて、簡易課税が適用されない事業者ということになる。売上5,000万というのは業種にもよるが、家族従業員以外には従業員一人とか二人といった規模の事業者であり、事務作業に専任する事務員などいるはずもない。これらの小さな事業者(会社)が事務負担に悲鳴を上げている。(2019年10月23日)

小規模企業の記帳・会計の実態 -小規模企業白書にみる-

小規模企業の記帳や会計の実態はどうなっているのだろうか。2,018年版小規模企業白書には、第2章「小規模事業者のIT活用による労働生産性の向上」とあり、第3節に「財務・会計におけるITの利活用」という項目がある。小規模事業者とは製造業・建設等で従業員20人以下、商業・サービスで従業員5人以下の個人事業者と法人である。

なおこの白書は中小企業庁が委託した「小規模事業者等の事業活動に関する調査」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)の報告書が主に参照されている。この調査の有効回答数は4,587社であり、「全国商工会連合会、日本商工会議所の協力のもとインターネットを活用して行われた。」とある。

まず、興味ある項目のアンケート結果をご紹介するするとともに、せっかくのアンケートであり、私もこれを利用させていただき、課題を探ってみたい。

調査の信頼性と限界

小規模事業者の数は、325万社(者)である。アンケートの有効回答数4,587であるが、アンケートの調査数は発表されていない。全くの推測に過ぎないが、この種のアンケートに回答する事業者は「うまくいっているところ」「成功体験があるところ」が多いのではないかと思われる。しかも調査手法としてインターネットを利用していることから、IT活用に関する調査結果は、かなりバイアイスがかかっているものと思われる。メールを使っていない、パソコンもほとんど使っていない層の多くは、アンケートが届いたしても無回答と思われるからである。

それでもなお、この調査の意義は十分にあると思われるので、中身をみていきたい。

1,財務・会計におけるITの導入状況

アンケートには会計業務におけるITの導入状況という設問があり、選択肢は次の6つである。かっこ内は回答の割合。

1,会計ソフト(クラウド型会計ソフト)を利用(9.8%)
2,会ソフト(パッケージ型会計ソフト)を利用(29.5%)
3,全て社外にアウトソーシング(税理士への記帳代行等)(27.6%)
4,オフィスソフト(表計算ソフト)を利用(12.2%)
5,特に何もしていない(紙で計算等)(18.9%)
6,その他(2.0%)

この調査では、およそ4割が会計ソフトを導入しているという結果であるが、これを小規模事業者全体の割合とみることには疑問がある。

2,誰が会計・記帳を行っているか

間接業務を誰が担当していますか?という設問があり、そのうち財務・会計(記帳)についての選択肢と回答は次の通りであある。

1,ほぼ経営者(45.7%)
2,経営者と従業員(20.4%)
3,ほぼ従業員(19.4%)
4,外注アウトソーシング(13.6%)
5,不要・行っていない(0.9%)

この設問では外注(アウトソーシング)が13.6%であるのに対し、ITの導入状況に対する設問ではアウトソーシング(税理士への記帳代行等)が27.6%となっている。一つのアンケートで回答者が同じであるにもかかわらず、回答が大きく異なる。これは会計におけるITの導入状況は、という設問では、複式簿記の帳簿など税務申告に必要なものが念頭ににあっての回答であり、誰が会計・記帳を行っていますか、という設問では、売掛帳や出納帳など広義に考えた人と、そうでない人両者がいるためであろう。

3,財務・会計(記帳)についての経営者の本音

小規模事業者は会計や記帳についてどう考えているのだろうか。

前問に引き続き、これらの業務(会計・記帳)について(1)従業員に任せたい、(2)パソコン等で電子化したい、(3)外注(アウトソーシング)したい、という設問に対する回答は次の通りであった。

1,従業員に任せたい(20.1%)
2,パソコン等で電子化したい(41.2%)
3,外注(アウトソーシング)(14.5%)
4,どれにもあてはまらない(30.2%)
(複数回答のため100%にならない)

4,経営管理状況

経営管理状況に関する設問があり、選択肢は(1)行っている、(2)行っていない、(3)わからない、の三つである。各項目のうち(1)の行っていると回答した人の割合は次の通りである。

a、毎月の売上高の把握(89.1%)
b、毎月の利益状況の把握(費用状況を含む)(66.4%)
c、毎月の現金収支の把握(83.5%)
d、在庫など保有資産の把握(67.1%)
e、商品・サービス別の売上高の把握(62.1%)
f、取引先別の売上高の把握(60.5%)
g、経営計画の策定(39.7%)

私の分析

せっかくのアンケート調査なので活用させていただいて、私なりに分析を試みる。

白書の概要

白書では、業務時間削減のため間接業務(会計・記帳など)の時間を削減するため、IT化を指向する経営者が多く、間接業務のIT導入度が高いほど、生産性が向上し売上も利益も伸びているとして財務会計(記帳)を効率化のためにはクラウド会計ソフトの導入を推奨している。

クラウド会計について

白書の記述では、クラウド会計によって間接業務のIT化が進んでいる企業ほど売上も利益も伸びており、今後はクラウド型会計ソフトの導入が課題であるという。しかし、この結論は強引である。

アンケートの質問項目や設問をみると、何やらこの結論を得たいがためのものと思えてしまう。というのもアンケートではクラウド型会計を使っている人を対象に、得られた効果を問う設問があるが、この質問をパッケージ型会計ソフト使用者にしたとしてもと結果は同じはずである。回答の選択肢のほとんどが、会計ソフトに共通するメリットであり、特にクラウド型のメリットとは思えないからである。

クラウド会計ソフトの導入の課題として、クラウド会計ソフトを使っていない人に対し11個の選択肢を用意して回答を求めているが、そのうち現状のシステムに不満がないとする人が51.2%である。面白いのは、顧問や経営に関する日頃の相談相手(税理士や会計士等)から反対されたという選択肢があることで、これは1.3%であった。

白書の「間接業務におけるIT活用が進んでいる企業ほど売上や利益が伸びている」という分析はおそらくその通りであると思われるが、クラウド型会計ソフトを導入すればよいというものではない。

小規模企業の記帳・経営管理状況

上記設問の4をみると、売上、利益、得意先別売上、商品別売上など経営状況を把握しているとする経営者が相当多数である。関心が一番高いのが売上で、次が現金収支である。商品別売上や得意先別売上を把握している人の割合も6割を超えている。

ここから得られる結論は、ほとんど全ての事業者が記帳をしているということである。しかも表計算ソフトなども含め何らかのツールを使っているものと思われる。そうでない限り商品別売上や得意先別売上は把握は困難と思われるからである。

記帳・会計のイメージが異なる

アンケートでは、記帳や会計業務について問うているが、回答者によって、そのイメージした内容が違うのである。ITの導入状況という設問ではその選択肢から、大抵の回答者が税務申告に必要な帳簿や会計をイメージしており、誰に任せたいですか、という設問に対しては、もっと広範囲の売掛帳、出納帳、支払い管理簿などをイメージした人と税務申告に必要な帳簿や会計をイメージした人両者がいると推測できる。

思い込みと誤解

白書の記述では、「小規模事業者は、事務負担が大変であり、あまりやりたくない業務であるが、ITを導入すれば効率化が可能であり、その効果として売上も利益も伸びる」という結果を導きたいようである。その上で、ツールとしてのクラウド会計ソフトを導入するための課題や支援策を記述している。

私も、ツールとして会計ソフトを導入すべきであり、その効果は大きいことは同感である。しかし、設問4の経営管理状況の回答からわかるように、小規模事業者は、経営管理に必要な帳簿や会計については、表計算ソフトの利用などで相当程度IT化は進んでいると思われる。

死んだ帳簿と生きた帳簿

債権管理、支払い管理、資金管理には何らかの帳簿は必要であり、これは生きた帳簿である。一方税務申告に必要な帳簿は結果を正確に記録するものであり、書き換えや事後訂正があってはならない。その意味では死んだ帳簿である。

小規模事業者にとって、アクティブな帳簿は必要であり、その形式は様々であるが、必ず記帳している。一方税務申告のため必要といわれる帳簿はムダな作業であって、できれば他人任せにしたいと考える人もいるのではないだろうか。

課題と結論

白書ではクラウド会計ソフトにこだわっているのであるが、私なりにクラウドに限らず会計ソフト導入の課題を探ってみたい。

白書では、導入が進まない原因を、導入の効果がわからない(37.2%)、使いこなせる自信がない(18.0%)、業務の流れが変わることに抵抗がある(15.1%)などのアンケート結果から課題を提起している。

私は、導入が進まない原因は、経営管理に役立つアクティブな帳簿として会計ソフトが役立つものであり、自己流の帳簿より、正確ですぐれたツールであるという認識が欠けているところにあると考える。

小規模事業者は、債権管理や支払い管理、金銭管理など必要な帳簿を記帳しているのであり、会計ソフトで、これらの管理を行う方が正確であり、便利であることが、あまり認識されていないのではないだろうか。

会計ソフト=税務申告という認識であれば、そのデータはアクティブな帳簿ではなく、導入したとしても売上や利益の向上に貢献するものではない。申告間際になって慌てて入力するようでは、手間は省けても経営管理には何も役立たないのである。

いまどき、パソコンやソフトのコストはたいした金額ではない。必要な課題は、アクティブな帳簿として、会計ソフトの導入を支援することであり、そのための最適な役割は税理士であると自負している。

クラウド会計のメリットについて、一言述べてこの稿を終わりにする。設問1によれば、税理士等への記帳代行等が27.6%である。これがクラウド会計によって行われるようになれば大きなメリットがある。現状の記帳代行では、事業者には集計結果が報告されるだけであり、事業者自身が自分の会計データに直接アクセスすることはない。これがクラウドになれば、直接アクセスすることが可能となり、経営管理に役立つものになるはずである。

 

読書案内

読書案内のページに記事5本アップしました。スミスの「国富論」のように200年以上前の本もありますが、いずれも税金や社会保障などを考える上で、アクチュアルな本を取り上げたつもりです。

スミスの「国富論」ですが、有名なスミスの租税4原則を実務家の視点で書いてみました。また消費税を考える上で、租税帰着の問題=新たな税や税制の変更が、法律で定めた納税義務者の負担となるとは限らないこともある=を論じているのが衝撃でした。ヴェブレンの「有閑階級の理論」も100年以上前の本ですが、私も含め現代人のお金に対する気分というか感情がどこから来ているのか、読むとヴェブレンに見透かされているような気になってしまいます。これが100年以上前の本ですから、やはり経済学者というのは恐ろしい存在です。

「入門経済思想史」「歴史人口学の世界」「会計学の誕生」は、いずれも広い意味で歴史です。いま何が起きていてどこに向かおうとしているのかを知る上で「歴史」を知ることは面白いし大切だと思います。少子高齢化問題を根本から考えて見たい方には「歴史人口学の世界」がおすすめです。

消費税近未来物語

今年2019年10月1日から消費税率が10%になり、軽減税率制度が導入されます。さらに4年間の準備期間をおいてインボイス方式に移行します。軽減税率という複数税率を私たちは初めて経験することになります(注)。インボイス方式も初めての経験です。(注)消費税導入時に普通乗用自動車だけ高い税率が課せられことがあります。これは物品税廃止にともなう調整のためです。

テレビ報道で接するのは消費者目線の話だけのようです。事業者、特に商店やちいさな会社にとってどのような影響があるのでしょうか。できるだけ具体的にイメージしやすいように「消費税近未来物語」を書いてみました。

税金・税制のページをごらんください。

阿部事務所へようこそ

「帳簿や会計メンドウクサイ、税理士にまかせよう」と思ている社長さん。それはとても「もったいない」ことです。今やパソコン会計ソフトを使えば、誰でも数百年に及ぶ人類英知の結晶である複式簿記システムを自分のものにすることができます。 とはいえ、消費税の複数税率などで税法知識も不可欠。ここっはやはり、税理士など専門家のアドバイスを受けながら、会計ソフトを運用していくのがベストでしょう。

このページでは会計ソフトの活用、簿記・会計、税金の話など役立つ情報を充実させていきたいと思います。