貸借対照表「資産の部」は、中身を3分類する

決算書は、株主や利害関係者など「外部」に報告することを目的として、会社法計算規則という法令に従って作成されています。したがって、社長用としては十分なレポートとはいえません。
貸借対照表は、決算日の「財産状態」を表したものと説明されることもありますが、実は会社の財産状態を正確に表しているわけではありません。貸借対照表の資産の部は、複式簿記の仕組み(複式簿記システム)によって「資産」(借方)として、処理したもの(処理せざるを得ない)ものの決算日の残高です。とはいっても複式簿記によって作成された貸借対照表は、会社の状態を知るためには、とても優れたものですから、これを基準として、会社の状態をつかんでおくことはとても大切です。貸借対照表は、そのままみてはいけません。

貸借対照表資産の部を分類する

資産の部に計上されているものは、資産価値という視点から分類すると、3グループに分けることができます。ここでいう資産価値とは金銭価値(金銭に換算したら)とう意味です。社長としては、貸借対照表をこの視点でみることが必要です。

1,金銭とその仲間

このグループは文字通り「資産」です。現金預金と金銭債権で、貸借対照表に表示されたままの価値があります。勘定科目でいうと、「現金」「預金」「売掛金」「受取手形」「立替金」「未収入金」などです。ただし回収の見込みがあやしいものがあれば除外して考える必要があります。

2,資産価値のないもの

このグループは複式簿記の仕組みから「資産」として計上されているもので、実際の資産価値はありません。
勘定科目でいうと「前払費用」や繰延資産として区分されているもの、固定資産として計上されている「建物付属設備」「構築物」「機械装置」「工具器具備品」などです。これらの貸借対照表計上額は各年度の決算で減価償却した金額を差し引いた残額です。
「車両運搬具」に計上されている金額も同様で、時価とは無関係です。特に換金する予定がない限り、これもこのグループに入れてよいでしょう。

3,貸借対照表計上額と資産価値が一致しないもの

貸借対照表には、実際の資産価値が違うものが多数存在します。計上額より実際の価値が大きいもの、価値が小さいもの両方があります。

生命保険には、その一部が「長期前払費用」として計上されているものがあり、解約返戻金は、通常は計上額を大きくなります。保険の中には、解約返戻金があるにも関わらず、一切貸借対照表に計上されていないものもあります。

「商品」「製品」などの棚卸資産資産と呼ばれるグループは、いつ売れるかわからないものが、含まれている可能性があり、税務上の処理とは別に社長として、回転がきわめて遅いものは、資産から除外して考えるべきでしょう。

社長にとって必要な情報は

決算書の貸借対照表は、そのまま見るのではなく、各項目を上記3グループに分け自分なりに加工することによって、会社の「資産総額」の真実の姿を把握することができます。是非やってみてください。

「固定資産」と「減価償却」の発明

個人で事業を始め青色申告をしようとする人にとって、まず理解不能?なのが「減価償却費」であり、これはちいさな会社な社長さんにとっても同じではないでしょうか。80万円で中古軽トラを買ったとする、当然これは必要経費だと思うのだが、申告会場に行くと「これは固定資産、減価償却の対象だから経費ではないですよ」といわれ「?」となってしまいます。税理士にとっては「固定資産」や「減価償却費」は当たり前すぎることで、何年で償却する?償却方法は?減価償却費は?だけが問題でしかないが、いつから、こうなっているのか、その理由はなんだろうか、手元にある本で調べてみました。

減価償却の始まりは19世紀イギリスの鉄道

何事にも歴史があるもので、「固定資産」と「減価償却」は、鉄道時代の始まりとともに、莫大な資金を集め、利益を出して、配当をするために必要な会計制度として「発明」されたもののようです。

18世紀の簿記書には「固定資産」=フィックスドアセッツ=という用語が存在しないとのことで、いわゆる産業革命はマンチェスターの綿工業から始まりましたが、真に「革命」といえるほどの社会の変化は鉄道からでしょう。鉄道の時代の到来は、1820年代からのようです。

鉄道は、綿工業と比較にならないほど多額の資金を必要とします。どうしても株式という形の他人資本を必要とします。資金を集めるためには、それなりの配当が必要ですが、配当のためには「利益」が必要です。鉄道は、線路、車両などの初期投資が多額で、これまでの「会計」では、利益を計上することが不可能であり、初期投資額を「資産」として処理し、以後の年度に「減価償却費」として経費計上するという手法が発明されました。これが固定資産と減価償却の始まりのようです。

以上は「近代会計成立史」(平林喜博:同分館出版)などを参考としました。